第460話 「暗闇の報酬」
聞き慣れたアラームの音で男は目覚めた。
昨夜、シクリッドタンクの照明タイマーが23時に切れたのを覚えていたので、
2時間は眠ったであろうか・・・。
1週間の疲れた身体を休めるに充分とはいえない睡眠時間だが
葛藤を振り払うかの様にベッドを後にした。
まだ完全に開ききらないまぶたのまま
ベランダに出て煙草に火をつけ、空を見上げると、男は大きく息を吐き出した。
4月も終わろうかというのに空気は身を突き刺すように冷たく
紫の煙が白い息と混じりながらゆっくりと上がっていった。
「風は無いようだな・・・・」
深夜2時
週末とはいえ、街はすっかり眠りについている時間である。
マンションの住民に気配を悟られないよう静かにドアを閉め
エンジンをスタートさせると車を静かに発進させた。
こんな時、最近のハイブリッド車なら音も無くスタート出来るのにな・・・
走り出してすぐ、深夜も営業しているドライブスルーでローストコーヒーを注文し
まだ覚醒していない身体にカフェインを流し込むと、
男は北に向けて一気に車のアクセルを踏み込んだ。
深夜のバイパスは、昼間の渋滞からは想像もできないくらい行き交う車もまばらで、
ついアクセルを踏み込みすぎてしまうが・・・
そんな逸る心を落ち着かせるように、男はiPODから流れるBlue Noteのボリュームを
上げた。
若い頃は何時であろうが女に逢いに高速道路を飛ばしたものだなと、
もう十数年前の青い記憶をふと思い出し、心の中で微笑んだ
だが、今夜男を待っているのは女の温かな白い肌でも身も心も癒されるベッドでもなく
暗黒の湖底で息を潜めてうごめく宿敵なのだ。
今夜こそは仕留めないと・・・・
男はさらにボリューム上げた。
ほどなくバイパスから見える街の明かりもまばらになり、目的地が近づいてきたことを
予感させる。
普段ならゆうに一時間以上はかかる道程も、今夜は30分程度でバイパスの
出口を下りる事ができた。
バイパスでアクセルを踏み込み続けた右足の感覚をリセットし
民家の間の車一台通るのがやっとの道を慎重に抜け
狭いパーキングへ停車し車を下りると目の前に漆黒の湖面が広がっていた。
周りを見渡すと他にも車が6台程度、同じ思いの人間が先行している様子。
いつもなら慌てて準備に取りかかるが、何故か今夜の男は落ち着いて
風の向きと強さを肌で感じるように、残ったローストコーヒーを飲み干した。
スナイパーにとって風向風速は重要なファクターであり照準の微妙な調整に
影響するのである。
幸いな事に風は微風、そのおかげで想像していたほど体感温度は低くない。
装備を身につけ他のスナイパーから充分距離を取り慎重に入水し、
真っ暗な空間に向けてファーストショットを打ち込む。
水温も拍子抜けするほど暖かく感じたが、これはおそらく真冬の装備で入水していた
せいであろう。
周りは暗黒の世界だが、時折あちこちで動くヘッドランプの明かりが
他にも入水者がいる事を窺わせる。
5人程度か・・・
湖面のウネリが高く、踏ん張っていないと体が前後に持っていかれる。
そんな状態で約一時間、ターゲットが現れる気配も無く、
4時を過ぎた頃から東の空が白み始めた。
と同時にウネリに加えて南からの強風も吹き始め、気づけば日の出を待つ事無く
他のスナイパーは引き上げて行ったようだ。
この状況ではターゲットを照準にとらえる確率は限りなく低いか・・・
徐々に男は体温を奪われ、気力も薄れはじめていた。
実際、いつもなら撤収しても不思議ではない状況ではあったが、
何故か今日は引き上げる事無くキャストを繰り返した、
奇跡がそこまで近づいていることなど知らぬまま・・・・
文才ないな・・・俺
↓to be こんてぃにゅ~
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コメント
続きに
期待してます
投稿: リボン&ハナ&コーヨー | 2010年4月26日 (月) 17時22分
リボン&ハナ&コーヨー さん
つたない文章を最後まで読んでいただきありがとうございます。
何か無性にハードボイルドになりたくて・・・つい書いてしまいやした。
続編の奇跡は満足いただけましたでしょうか???
投稿: みつ | 2010年4月26日 (月) 21時22分